三軒茶屋のシバカリー ワラは本物だった

「お盆だからそんなに並んでないだろ」そう呟きながら、三軒茶屋駅から茶沢通りを下っていく。途中から一本裏道に入り、さらに緩やかな坂道をくだる。

通勤で毎日通りすぎる三軒茶屋駅。ここにシバカリー ワラがあるのは前々から知っていた。噂も耳に入っていた。自宅からも近いので、来ようと思えばいつでも来れる距離にある。でも一度も食べたことはない。なぜかというと、来るたびに10人以上の行列ができているのだ。それをみると気持ちが萎えてしまい、すぐ諦めてしまう。家が近いだけに、またにしようと考えるのだ。でも、いつも並んでいるから、その“また”も、またになってしまう悪循環。

そして、すぐ裏にあるZAZAカレーへいって、チキンカレーを注文するのであった。ちなみにZAZAカレーも、いいスパイスカレーをだすので、かなり有力なプランBなのだ。

さて、話を戻そう。今日はお盆だし、それほど人もいないだろうと高をくくっていたが、念の為家を早めに出ていた。開店前の11:30頃に店に着く。すでに道の反対がわまで行列ができていた。マジか……。意を決して、今日は並ぶことにした。

店舗は2階にあって、表から急な階段を登っていく。一巡目の人たちがこの階段に並ぶわけだが、だいたい6、7人といったところだろう。そして、この階段下までに入りきらない人は、道路を挟んで反対側の歩道に並ぶ形になる。そう、真夏のピーカン照りの真下に。私はこの二巡目の最後くらいにつくことができた。暑い。せっかくだから日焼けしようと空を見上げる。傍目に見たら大丈夫かこいつである。

開店した。一巡目の人たちが店に吸い込まれていく。二巡目の我々が階段へ移動する。私はちょうど階段の一番下についた。かろうじて日陰に入ることができた。今日のメニューをチェックする。

ニルギリチキンコルマ、ポークチリキーマ、ケララシーフード、夏野菜のサブジ。“ニルギリ”と“サブジ”の意味がわからないが食えばわかる。

しばらく並んでいると、店の人が上から順番にオーダーを取りに来た。ここは、間違いなく3種の盛り合わせ1450円だ。ポークチリキーマ、ケララシーフード、夏野菜のサブジをオーダー。ついでにチキンティッカも注文した。ちなみに2種盛りは1100円。

それから、一巡目の人が店から出てくるたびに、階段を高い位置へ移動していく。そして、ついに店の敷居をまたいだ。店内は、やや薄暗い。窓からの自然光が差し込み、アジアンテイスト雰囲気に趣を与えている。カウンターが4席、テーブル席が3席ほど。スパイスの香りが立ち込める、美味しい空間だ。

まず、チキンティッカがやってきた。香ばしい肉の香りが立ち上ってくる。唾液が溢れてきた。フォークをぶっさして、熱々のそれに噛み付く。肉汁滴る。身はやわらかくジュシーだ。あぁ。よいよ。よいです。次にレモンを絞った。ほどよい酸味が旨味を倍増させる。旨すぎる……。

続いて、プレートに盛られたカレーがやってきた。まず、一番辛そうなケララシーフードにスプーンを入れた。おお、濃ゆい濃ゆい。口の中に広がる濃厚なコク。続いてココナッツの甘みがやってくる。深みのある、ほのかな苦味が憎いな〜。

野菜のサブジはトマトベースでできているようだ。口の中でナス、オクラ、ズッキーニ、とうもろこしが踊る。時たまやってくるミョウガのアクセントが、これまた苦しゅうない。

最後に、ポークチリキーマにトライ。はい来た! ポークから滲み出た肉汁がスプーンを加速させる。粗挽きポークの食感とスターアニスの甘ったるい香りが、よくマッチしている。この甘ったるいスパイス使いも苦しゅうない。

「こりゃあ旨いわ、ところで混ぜる?」
数種類盛りのカレーを食べる時、自分会議がスタートである。混ぜた方が旨くなるカレーと、混ぜない方が旨いカレーがある。関西系のスパイスカレーは、混ぜるとさらに味が面白くなって、その変化を楽しめるものが多い。一方でサンバル、ラッサムが付かない本格的なインド系は、それぞれ食べた方がいいと思っている。今回は後者だ。それぞれの味が完成されていて、混ぜるとそれが台無しになってしまいそうな気がするのだ。というわけで、今し方別々に味を堪能することに決定した。

ああ、それにしてもスプーンが止まらない。あれこれ思考をめぐらすことも無く。うまいカレーは体が反応する。大体、もっともっとと身体が言ってくるのだ。名残惜しいが、もう米つぶ一つすらプレートに残ってないのだ。仕方がない、サラを舐めたい衝動を抑え、帰るとしよう。

ごちそうさまでした。

シバカリー ワラの場所