あっ 指の外側が触れあった。
かすかに体温を感じる。
雪の影響なのか
帰り道の恵比寿駅のホームが
異常に混んでいた。
ホームに入ってきた電車も満員で、
乗り遅れないように、というより
乗り溢れないように、
バッグを抱え乗り込んだのだった。
この混雑と、ドア口から押し入ってくる
人々は肉弾戦の様相を呈し、
わたくしの手は、わたくしの
意図しない方向へ放り出されたまま、
肉弾のあいだで、固定されてしまった。
そして、わたくしの手と同じ場所に、
あなたの手が。
そして、わたくしがあなたの手の温もりを
感じているということは、
あなたも、感じているということで。
その手の主は、正面にいる綺麗なお姉さん
ではなく、右斜め前のおじさん。
ki mo i である。
そして、相手のおじさんもkimoiに違いない。
私とおじさん。
おじさんがいて、私がいる。
スピリチュアル系の本によると、
我々は、元は一つ。ワンネス(一元性)なのだ。
だから、私もいないし、おじさんもいない。
ワンネス(一元性)から、
分離した自分は幻想でしかないのである。
自分は幻想でしかないのだら、
さっきから温もりを感じている手だって、
げ、幻想に違いなく、
kimoiなんて感情は起こらないのだ。
どうか、私よさようなら。
と、無理やり自分の説得を試みたが、
やっぱり、自分過ぎる私から
kimoiを消し去ることはできなかった。