前回出張でカフェ ハパナに来たのは、ちょうど台風が関西地方へ近づいていた頃だった。今回は、金山駅近くのクライアントと商談があったので、久々にあの味を食べてみたくなった。今日は随分寒い。朝の天気予報では最高気温が10度だった。私は寒いのが嫌いだ。正直、どんなにカレーが旨くとも、こんな寒い日に外に並んでまでカレーを食べようとは思わない。
店の前に到着した。幸い誰も並んでいない。しかし、満席で中には入れなかった。残念である。もし、同じカレー屋に並ぶのに、真夏の炎天下で20分並ぶのと、真冬の凍えるような風の中で10分並ぶのと、どっちがいいかと聞かれれば、喜んで真夏を選ぶ。でも、今日はどうしてもここのカレーを食いたい。少し待てば入れるだろうという希望的観測の元、待つことにした。5分も待たずに、女性のお客さんが出てきたので、空いたカウンターの一番端の席に着いた。
前に来た時には気づかなかったが、2階まで吹き抜けのような空間になっていて、パステルグリーンの壁が、ずうっと天井まで伸びていた。カウンターが6席と、4人がけのテーブル席が2つで、余分なスペースがない店内だが、天井が高いおかげで、圧迫感がない。棚に置かれたスピーカーから流れている、スリランカのポップスらしき音楽は、スリランカ人のマスタの趣向なのだろう。彼は、イケメンで、日本語上手で、客の扱いもとても上手い。おまけに人好きする優しげな人柄がつたわってくるナイスガイなのだった。
【主なメニュー】
カリーライスランチ 780円
(チキンと野菜のカリーライス)
日替わりカリーランチ 980円
(豆カリー、日替わりカリー、サラダ、おかず、ナン or ライス)
ベジタリアンランチ 880円
(豆カリー、野菜カリー、サラダ、おかず、ナン or ライス)
日替わりは、ナスチキンカリーだ。
日替わりカリーを、ライス大盛り(100円)とカリー大盛り(50円)で注文した。今日は、人手が足りないらしく、マスターの彼と日本人スタッフの女性が2人だけ店を回している。女性の方はあまり、接客に慣れていないような動きだ。結構待たされるかなと構えていたが、意外にあっさりと料理が出てきた。
金属製のワンプレートに星型に高く盛られたバスマティライス。周りには一見シャケそぼろに見えなくもない、サーモン色をしたココナッツの和え物。それから味付けポテト。豆カレーと日替わりカレー、サラダが、楽しげに並んでいる。まるで大人版お子様ランチといったところだ。
まず日替わりのナスチキンカリーの味見からだ。スパイスされたグレイビーな香りが食欲をそそる。そしてひき肉から染み出した肉の油と旨味がたまらない。あまり鶏肉という感じはしない。フルーティーな酸味は、肉の脂っこさを感じさせず、最後までスプーンの回転数は落ちることはない。脳裏には、海辺に並ぶココ椰子の木と土の上に寝転ぶ牛が浮かび、私のこころはスリランカを彷徨い始める。その気豆カリーは、豆というよりは野菜カリーのようでもある。全体的に、異国情緒ただよう味は、やはりネイティブのスリランカ人が故郷の味を再現しているからだろう。具体的に何がというわけではないが、その少し少しの違いが、決定的に日本人の作るカレーともインド人の作るカレーとも、異なる味を紡ぎ出していた。おそらく、これがスリランカのお袋の味なのだろう。カフェ ハパナの味は、スリランカのお袋の味だった。そして、また私の心はスリランカの海辺を彷徨い始めた。
食事を終え、会計をしながらオーナーと話をした。
「ごちそうさまでした。美味しかったです。味付けはスリランカの味付けなんですか?」
「はい、辛さは控えめにしてますが、味付けはそのままです」
「ああ、そうなんですか」
「今日は、市場で牛肉を仕入れたので牛を使ってみました」
ああ、そうなんだ。メニューにはチキンと書いてあったけど、牛肉だったので通りで……。