神保町のトリップするカレー マンダラ

スプーンの先に少しだけとったカレーを口に入れると、突然スパイスの薫りが脳天を突き抜けた。次の瞬間わたしは、インドの何処かにある裏路地にいた。日本では嗅いだことのない異国の匂いが漂う。昼寝する牛。肌にまとわりつく湿度。路地を行き交う人の喧噪に包まれている。そして数秒後、再び神保町マンダラのテーブルに戻ってくる。なんだこのカレーは?! 始めての体験だった。よし、もう一口。するとまた、インドの喧噪にトリップする。そして、先ほどより早く現実に引き戻された。

この日の午前中から、私は神保町にいた。クライアント企業との打合せがあったからだ。打合せが13:00に終わり、オフィスビルの外へ出た私は、すぐにスマホで「神保町 カレー」と検索をしたのだった。前日に柏でグリーンカレーを食べたのにもかかわらず、午前中からカレーを食べたい症状にみまわれていたのだ。そして検索で神保町カレーグランプリを制したマンダラが引っかかった。カレー激戦区の神保町でグランプリを獲得しているのには確かな理由があるはずだ。期待が高まる一方で、あまり期待ように自分を抑えてもいた。誤解を恐れずにいうなら、所詮カレーなのです。どこで食べるインドカレーもそれなりに美味しいし、味はだいたい似かよってしまう。ラーメンとB級グルメの双璧をなすカレーにおいて、逆に突出して個性的なカレーには出会うことは珍しい。

しかし、マンダラのカレーは違っていた。とても“インド”なのだ。それもそのはず、ここのコックは約30年の経歴をもつインド出身の方なのだ。とくにルーとナンにこだわっているという。ただ、インドカレーでルーとナン以外に、こだわりをもつところがあるのかというツッコミどころがないわけではないが……。ただ、私はオーダーのときに痛恨のミスを犯した。普通、小辛、中辛、大辛、激辛の中から、中辛にしてしまったのだ。いや、普通のインドカレー屋さんであれば問題ないのだが、ここの辛さの基準はインドスタンダードなのだった。

3口目からは、その辛さのためにあまり味がわからなくなってしまうほどであった。なんでこんなに辛いのかと思い、もう一度メニューを見返すと、「普通」というところに、(日本のカレーの中辛くらいのからさ)と小さな字で説明書きがされていた。ということは、中辛は日本でいうところの激辛に相当する辛さなのだ。失敗した。しかし、もう後には引けない。しかたなく、この旨痛いカレーをほお張る私であった。

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