緊急事態宣言のせいなのか否か、
ノマドランドHPの上映劇場をチェックすると
東京の劇場が一件も表示されていなかった。
そこで首都圏の劇場を探してみると
大手の劇場が軒並み休館を告知する中、
首規模の小さい劇場は営業しているようだ。
どうしても観たかったので、その中でも最寄りの
川崎CINECTITTAまで足を運んだ。
ノマドランドの主演女優はフランシス・マクドーマンドだ。
しかし名前を聞いてもピンとこない。けどよく知った女優さんだ。
「ファーゴ」に出演していたあの人といえばぴんと来る人もいるかもしれない。
最近ではスリービルボードで、ぶっ飛んだ母親を名演している。
映画は、夫を亡くした60過ぎの女性が
炭鉱閉鎖で寂れた街を去るところか話からはじまる。
炭鉱閉鎖で勤めていた関連の会社も倒産。夫の死後、
パートで働いていたAmazonの配送センターが年末年始?で
休みになり働く場所がなくなったから街を出るらしい。
この時すでに彼女には家がない。炭鉱関連の会社に勤めていたため、
住んでいた社宅から立ち退き、車上で生活をしている。
アメリカではこのように車上で生活している人たちが多くいるようだ。
日本ではまだ一般的ではないし、これから先も一般化するとは考えづらい。
土地が広大で車社会でこそ成り立ちやすい生活様式なのだろう。
映画のタイトルにもなっているノマドランドの“ノマド”とは遊牧民を意味する言葉。
かつてはネイティブインデアンたちが、今は車上生活者たちが
広大な土地を移動しながら生活をする土地、だからノマドランドなのだろ。
仕事を探す為なのか、仲間を探す為なのか、
いや、そもそも何も探していないのかもしれない。
彼女は車で移動を続ける。そこには彼女を路上へと
突き動かす何かがあるように思える。
自由への渇望なのか、何かからの逃避なのか……。
一見自由に思えるノマド生活に憧れを抱く自分がいる一方で
その内に不安を覚えなくもない。
兎にも角にも移動しながら車上で生活を送るということは
住所もないわけで、特殊な技能がない限りプロパーな仕事にはつけない。
例えば優秀なウェブデザイナーとかyoutuber的な技能があれば、
車上生活でもオンラインで仕事ができる。
でも多くの人がそうであるように、私にはそのような技能はない。
故に、レストランの厨房とか農家の手伝いとかくらいしかできない気がする。
そうすると、精神的にも不安を抱えたまま生活を
続けなければならないのだ。
自分ならどうなるのか? どう対応できるのかと。
体が動くうちはいい。70歳、80歳になったら?
おそらく車上で生活をする人々は自らが望む一方で
そこから抜け出そうと思ってもかなわない人が多いのが現実だろう。
経済面での安定を望むには向かない生活だ。
古き良き時代には、街には様々なお店があり、
労働者としての働き口はもっとあったのかもしれない。
でも現代は大きな資本によって商業施設ができ、
個人経営の店は打撃を受け働き口は減った。
さらにそんな商業施設もネット通販によって
打撃を受け失業者を増やしているに違いない。
主人公の彼女がそんな大手資本で利益優先企業の象徴のような
Amazonでパートをしているというのは皮肉な話だ。
話は映像の話にとんで、
随所で提供される雄大で荒涼とした自然のカットは美しく
ヴィジュアル的に素晴らしい。
一方で、そんな美しい自然の中で生きる厳しさも
ひしひしと伝わってくる。
コロナ禍で職を失う人、廃業する人が増える世界にいて
私たちの生活はこれからどこへむかうのだろか?
自分の人生はどこへ向かっていくのだろうか?
この映画は私たちにそんな疑問を投げかけているようで
考えさせられる1本だ。