ボンベイ

恵比寿東口のみずほ銀行からガーデンプレイスへの登り坂を歩く。炎天下の歩道は軽く40度を超えるだろう。ねっとりと密度を増した空気は吸ってもすっても酸素が足りない気がする。ボンベイにたどり着くと、炎天下の中既に5人ほど並んでいた。マジか。炎天下で並ぶのか、それとも帰るか。0.2秒程躊躇するが、ボンベイのカレーに軍配が上がった。日よけがもなく、ピーカン照りの中順番を待つ。直射日光で額がジリジリする。少しでも直射日光を避けるために、両肩が太陽に垂直になるように立ち、日光に当たる面積を少なくしてみる。私だけ並ぶ方向に対して、変な向きを向いて並ぶ形になり、ちょっと変な人感をかもし出している。それがどうした、暑いのだ。10分程待つと、ようやく店内に入る番がやってきた。中は、カウンターで6席のみで立ち食いスタイルだ。券売機でカシミールカレーのチケットを購入。何種類かある中で「一番人気」という説明書きにのっかり、これにした。しかし、この後カシミールカレーにしたことを後悔することになる。

5分少々で、白いプレートに盛られたライスと、金属製の器に入った赤褐色のカレーが運ばれてきた。うん、香ばしい香りが漂い、よだれが口の中に溜まってくるのがわかる。大きなスプーンでカレーをすくいライスにかけた。サラサラのカレーは、ライスに吸い込まれるように、しみ込んでいく。そして、一投目のスプーンをライスにいれ、それを口へ運ぶ。絡みあったスパイスのダークな香りが鼻腔を抜ける。続いて強い辛さが口内を征服していく。旨い! そして辛い! 深くダークな旨みは、大人のスパイスカレーだ。続いてスプーンを投入する。スプーンを口へ運ぶたびに辛さが増していくようだ。くぅーーーーっ。旨辛! 胃の辺りまで、スパイスの刺激が届いているのがわかる。この辛さは、ちょっと完食が難しいかも……、と若干の不安がよぎる。

しかし、同時にこの旨さもスプーンをとめるのが難しい。そう、鞭を打たれながらカレーを食べるのが、気持ちイイ! みたいな感じだろうか。もはやSMプレーのようでもあり、そんな自分がいたのかと新たな発見してしまったようでもある。そんなカシミールカレーとの戯れも終盤に地被いたころ、店員さんが話しかけてきた。
「あったかいコーヒーか、冷たいチャイどちらにしますか?」
え? 冷たいチャイ? そう今まさに私が欲しいのは、鞭打たれ食道の痛みを和らげてくれるミルクの優しさだった。
「冷たいチャイで」とお願いする。
小さめの器で運ばれてきたチャイをいただくと、天使の羽のように私の食道を癒してくれるようなきがした。それにしても、ただ辛いだけではない、私を魅了するボンベイさんの奥深いスパイスワーク。一度食べただけでは、その深さを知ることはできないことを悟った。そう、完食したそばから、次に来ることを考えている自分がいるのだった。