小雪のちらつく中、R246沿いの歩道を三軒茶屋駅から渋谷方面へ歩き、200mほど進むと右へ入る路地の角に洋食屋が見えてくる。ここは、人気店らしくいつも混んでいる。その角を曲がると『とんがらし』が目に入る。白いアコーディオン式の扉を開けると、すぐそこにカウンター席が配置されていた。カウンター7席のみの小さな店舗だ。腕時計をみると14:15と表示されている。昼どきはやや過ぎていたが、3人の先客がいた。
カウンターの中には、若い頃は美人だったと思わせるおばちゃんがいた。今は、背中に丸みを帯び始めている。
【メニュー】
豚バラ軟骨カレー 900円
ほうれん草チキンカレー 900円
キーマカレー 900円
ハナビラタケカレー(季節限定) 900円
メニューをみていると、おばちゃんがハナビラタケカレーを勧めてくる。どうやらオススメらしい。ここはおばちゃんのオススメにしたがってみるか。
「ハナビラタケカレーで。大盛りになります?」
「大盛りはないの。すぐご飯がなくなっちゃうからね」
「あはは。では、普通で」
その一挙手一投足に、体を動かすことの大変さが表れていた。テキパキと店を切り盛りする体力は、いささか失われてしまったようだ。あくまでも自分のペースで自分の出来る範囲で、商いをしている。それでも、客足が絶えないのは愛されている証拠なのだろう。
右となりでカレーを食べている青年が、暑そうだ。ハフハフ言いながらカレーをかき込んでいる。滴る汗。店内を見回すと白い壁のあちこちにサインが書かれている。有名人なのかもしれないが、誰のサインか判別不能だ。そもそも有名人のサインは、サインのくせに、それが誰のものなのか写真でもないと判別できない書き方になっている。それでいいのか? そんなことを思っているうちにカレーがやってきた。
茶色くて取手のついたシチューの器のようなものに入った席褐色のカレーと、白い皿にアーモンド型に盛られたターメリックライス、そしてサラダ。カレーをスプーンにすくい、口へ運ぶ。トマトベースの煮込まれたルー。果実の甘みが口の中に広がる。フルーティだが、しっかりとスパイスされている。つるっとしたハナビラタケが、ぷりんと口の中で弾けた。うん、いける!
「すごい汗ね」おばちゃんが、右となりでカレーを食っている青年に声をかけた。
「そうなんです、カレーを食べるといつも汗かいちゃって」
「代謝がいいのね。若い証拠よ」
「あ、ありがとうございます!」
なるほど、確かに若さかもしれない。ちなみに私はカレーを食っても全く汗をかかない。カレーに耐性ができているのか、単に代謝がわるいだけなのか……。
「そういえば、おじいさんのお客さんは汗かかないわ。若さね」
「でも、いつもそれで風邪引いちゃうんですよ」
どうやら、おばちゃんは隣の青年を気に入ったらしい。確かに汗を流しながら食っているのを見ると、とてもうまそうに見える。やっぱり私は若くないのか? 43歳という年齢は、おじんさんというには、まだだいぶ若いのだが。
そんなことを思いながらハナビラタケカレーを完食。ごちそうさまでした。
とんがらし 店舗情報
【営業時間】
11:30~20:30頃
【住所】
東京都世田谷区三軒茶屋1-41-12